狭間善徳監督(明石商)いざ全国区。「狭間ガッツ」に隠された緻密さ/高校野球名物監督列伝
2019年12月4日 00:00配信
今夏の甲子園で最も全国に名を広めた監督は、明石商・狭間善徳監督ではないだろうか。ベスト4の結果もさることながら、今年の明石商はベンチのムードが一味違った。
「ベンチに入っている」という表現では足りない。まるで海賊船に乗っているような躍動感。そのなかで選手とともにガッツポーズを連発した狭間監督。「狭間ガッツ」は新たな甲子園名物としてファンの目に焼きついた。
◎全中4回制覇の名将
狭間監督と言えば、中学軟式球界では知らぬ者がいないほどの名将だった。日本体育大卒業後、母校・明石南の講師、サラリーマンを経て、1993年に高知・明徳義塾中の監督に就任。2000年、2001年、2003年、2005年と4度全国中学校軟式野球大会(全中)を制している。現在も明徳義塾中は強豪として知られるが、全中初出場は1994年。狭間監督が名門の基盤を築いた。
当時の勝利への執念は伝説的だ。対戦相手を綿密に分析し、勝ちへの糸口を見逃さない。あるときは全国大会の前に北海道まで偵察に行ったという逸話も残っている。黒々と日焼けし、豪快なガッツポーズ。表面上は豪放磊落に見えるが、その戦い方は今も策士そのもの。熱さと冷静さが同居しているのだ。
狭間監督の戦術はスモールベースボールとも評される。パワー全盛の時代だが、徹底した観察と根拠があるからこそ、バント、エンドラン、スクイズの小技が光る。
「(相手投手の)首の動きのクセを完璧に把握していた」
今夏の甲子園3回戦・宇部鴻城との試合、1点を追う8回に三盗を決め、同点に追いついたシーンについて、狭間監督はこんなコメントを残している。狭間野球ではこれが日常なのだ。延長10回のサヨナラスクイズのシーンについては「攻撃の引き出しは全て持っていた」と語っている。
◎背中で語る男の生き様
「1年360日、ずっと練習して。ホンマにようやったと思います。みんなエエやつでね」
準決勝で敗れたあと、こう選手を労った狭間監督。365日中360日練習。ここだけを捉えれば、スパルタともいえる。しかし、選手がついてくるのは狭間監督が人一倍頑張る男だからだ。
2006年に明石商のコーチになり、2007年に監督に就任。当時の明石商は無名校でグラウンド脇には雑草が生い茂っていた。狭間監督は練習の前後に黙々と草むしりをしたという。それを見た選手たちも草むしりを始めた。
強豪と呼ばれるようになった今も狭間監督は先頭に立ち続ける。あそこまで日焼けした監督はなかなかいない。
今夏の準決勝・履正社戦の前も午前2時に目が覚め、相手の映像を分析していたという。理論派でありながら、熱血漢。ガッツポーズは本心かそれともベールか。そんな見方も面白い。
◎名物監督に必要な「コメント力」も完備
甲子園ではコメントもピカイチだった。
「ガッツポーズのしすぎで右ヒジがおかしくなった」
準決勝で敗れたあとも「馬淵監督から『お前の背中には神様がついとる。風呂に入るなよ』と言われていたのに、風呂に入ってしもうた。僕、結構きれい好きなんで」とジョークを飛ばし、記者陣を笑わせた。
恩師である明徳義塾・馬淵史郎監督に負けず劣らずのコメント力を見せ、甲子園メディアにフィットしてきた。熱く、鋭く、楽しく、ときには煙に巻く。狭間監督の話題提供能力は名物監督になるには十分すぎる。再び甲子園で見る日が待ち遠しい。
文=落合初春(おちあい・もとはる)